アイヌ語形態素エクスプローラ
地名一覧

札幌 さっぽろ Sapporo

北海道石狩地方札幌市

アイヌ語表記: Satporo

石狩、後志、網走、釧路、根室、留萌、十勝、虻田、江別、雨竜、増毛と並び、辞書に基づく読みでは意味の定まらない北海道の大地名の一つ。命名は辞書が記録する方言より数百年古い可能性がある。

位置

43.0686, 141.3509 · 座標:OpenStreetMap Nominatim, 2026-09-10。札幌 の位置。 OpenStreetMap で開く

指示対象

  • 集落 札幌市。19世紀には上サッポロ・下サッポロのコタン
  • サッポロ川(豊平川の旧名)。旧下流部は伏籠川 husko-sapporo「古いサッポロ川」、茨戸の旧河口は sapporo-putu
  • 江戸期文献のサッポロ山。藻岩山を指す文献と支笏湖北西の山地群(札幌岳・空沼岳・漁岳・小漁山・恵庭岳)を指す文献に分かれる。松浦武四郎のサッポロ岳・サッポロノホリはサッポロ川の水源山、漁岳または小漁山を指す

語源分析

sat-poro

サッポロ ‘乾燥広大’ 定説
  • sat ‘乾く’
  • poro ‘大きい’

提唱者: 永田方正 (Nagata Hōsei)

いわゆる定説。一般向けには豊平川扇状地を指して「乾いた大地」と説明される。

反論

  • sat も poro も自動詞であり、名詞を伴わずに自動詞が2つ並ぶ地名は全道約1万の地名の中にほぼ存在しない。 — zenibako_trek zenibako_trek2026
確信度: 低

両要素とも辞書にある語で音の切り分けは容易だが、主要部名詞を欠く動詞連続という文法上の問題に答えがない。

zenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」Batchelor1905 grammar, end of chapter V: Satporo kotan "the village of much dryness"

sat-poro-pet

サッポロベツ ‘乾く大きい川’ 提案
  • sat ‘乾く’
  • poro ‘大きい’
  • pet ‘川’

提唱者: 山田秀三 (Yamada Hidezō)

pet「川」を補って主要部名詞を持たせた形。同じ形はバチェラー(1905)が先に記録しており、理由づけは「川床が広く夏に乾く」である。

反論

  • sat-poro という動詞連続は残る。sat-[poro-pet]「乾くホロベツ」と括り、本流ホロベツに対する支流名と見れば文法上は成り立つが、近くにホロベツという川はなく、江戸期文献も pet を付けた形をほとんど書かない。 — zenibako_trek zenibako_trek2026
確信度: 低

pet で終わる形は文献にほとんど現れず、川名起源説には不利である。

zenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」Batchelor1905 § V "Place Names Considered", s.v. Sapporo: Sat-poro-pet "the river which gets very dry"

sattek-poro

サッテクホロ ‘乾き上がる所’ 提案
  • sattek ‘乾き上がる’
  • poro ‘大きい’

提唱者: 松浦武四郎 (Matsuura Takeshirō)

田村(1996)は sattek を sat-tek「乾く・ちょっと…する」と分析し、意味は「やせている、やせる(人、動物が)」とする。「乾き上がる」という地名の語義は表が松浦のものとして報じるもの。

確信度: 低

sat-poro と同じ動詞連続構造であり、文献の表記に至るには sattek の末尾音節の脱落を仮定する必要がある。

zenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」田村1996 s.v. sattek [sat-tek 乾く・ちょっと…する] やせている、やせる

sar-poro-pet

サリポロ ‘湿原が広い川’ 提案
  • sar ‘湿原・葦原’
  • poro ‘大きい’
  • pet ‘川’

提唱者: 更科源蔵 (Sarashina Genzō)

sar は地形名詞「葦原・ヨシ原」(田村1996 sar 葦原、ヨシ原)であり、sar「尾」とは別の見出し語である。

確信度: 低

sar をサッと読み、主要部の pet が初期の記録のほぼすべてで脱落したと仮定する必要がある。

zenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」田村1996 s.v. sar 葦原、ヨシ原 (a separate headword from sar 尾)

sap-oro-pet

サップオロ ‘水が流れ下った川’ 提案
  • sap ‘(大勢が)下る’
  • oro ‘〜の所’
  • pet ‘川’

提唱者: 榊原正文

第一要素を辞書にある自動詞 sap「(大勢が)下る」と読む。

確信度: 低

下の「崎」説と sap + or という切り分けを共有し、sap を何と見るかだけが異なる。位置名詞 or の前には名詞が来るという記事の述べる規則に従えば、動詞 sap による読みは sat-poro と同じ問題に直面する。

zenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」

sat-poro-nupuri

サッポロヌプリ ‘乾く大きな山’ 提案

提唱者: J・バチェラー (John Batchelor)

バチェラーは Sat-poro-pet を挙げたうえで、名の本来の由来は Sat-poro-nupuri「乾いた山」だとする。

確信度: 低

山を指示対象とする点は江戸期の「サッポロ山」という用法と合うが、動詞連続 sat-poro と nupuri の脱落は説明されない。

Batchelor1905 § V "Place Names Considered", s.v. Sapporozenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」

sat-cep-poro

サチッポポロ ‘乾いた魚が多い’ 提案
  • sat ‘乾く’
  • cep ‘魚’
  • poro ‘大きい・多い’

提唱者: 林顕三

確信度: 低

語中の cep はいずれの表記にも痕跡がない。

zenibako_trek2026 表「既存のサッポロの地名解」

sap-or

サッポロ ‘崎の所’ 提案
  • *sap ‘崎・突き出た所’
  • or ‘〜の所’

提唱者: zenibako_trek(小樽銭函地名歴史研究会)

sap を辞書から失われた地形名詞「崎」と見て、sap-or を地形名詞に or を付けた多数の「〜オロ」地名と同型に読む。指示対象は藻岩山の麓、中央区の山鼻地区で、日本語の山鼻は「山の端」の転。この読みではサッポロ川は「崎の所」の傍らを流れる川であり、名は後に扇状地と市域へ広がった。著者はさらに *sap を sa-o-p「前にあるもの」と分解し、sa「前・海側」から派生した sapa「頭」(地名では「岬」)や san「出る・出崎」と並べる。

異形

  • sap-poro ‘崎が大きい’ 自動詞 poro で終わる地名は樺太に例があり北海道では稀。現行の表記に最も近いため、著者はこの形を控えの読みとして保持する。
  • sap-or-o-pet ‘崎の所にある川’ pet を伴う少数の文献表記に対する読み。

根拠

  • 同型地名

    目立つ3つの岬が sap を含む。納沙布岬と野寒布岬は not-sap「岬の突き出た所」(サとシャは同一音節)、函館山の麓の尻沢部村は『津軽一統志』『元禄郷帳』に「しりさつふ」「しりさふ」とあり sir-sap「山の突き出た所」。新得町の佐幌は古地図に「サツホロ」とも書かれ、新得山の麓の同じ sap-or と読み、新得自体は sir-tuk「山が突き出る」と読む。

    • 納沙布岬 not-sap
      • not ‘岬’
      • *sap ‘突き出た所’
    • 野寒布岬 not-sap
      • not ‘岬’
      • *sap ‘突き出た所’
    • 尻沢部(函館・谷地頭) sir-sap
      • sir ‘山’
      • *sap ‘突き出た所’
    • 佐幌(新得町) sap-or
      • *sap ‘崎’
      • or ‘〜の所’
    • 新得 sir-tuk
      • sir ‘山’
      • tuk ‘突き出る’
  • 形態パターン

    地形名詞の後ろに or「〜の所」を付けた地名は全道に多い。名寄 nay-or「沢の所」、芽室 mem-or「泉の所」、士幌 sup-or「激湍の所」、野幌 nup-or「野原の所」、塘路 to-or「湖の所」、庶路 so-or「滝の所」、忍路 us-or「入江の所」、モヨロ moy-or「入江の所」。一方で根室 nem-or、広尾 pir-or、足寄 as-or、白老のアヨロ・ウヨロ・オヨロのように or の前の要素が辞書で説明できない地名もあり、記録された語彙から失われた地形名詞が複数あることを示す。

  • 文献

    江戸期文献は複数の視点から藻岩山をサッポロ山と呼び(用例参照)、名に pet を付けた例はほとんどない。これは川名よりもランドマーク名にふさわしい。

  • 地形

    藻岩山は石狩平野に岬のようにせり出し、住民から「軍艦岬」と呼ばれた。モイワという名はもともと現在の神宮のある円山を指していたらしい。現在の藻岩山のアイヌ語名エンカルシベ inkar-us-pe「見張りをする所」はランドマークかつ聖地であることを示し、阿蘇岩山、手稲山カムイエロキと並んで札幌近郊でイナウを捧げた三山の一つであった。

    • inkar ‘見る’
    • us ‘いつも〜する’
    • pe ‘もの・所’
  • 考古

    山鼻付近の C54〜C57 遺跡は擦文期の集落跡で、川の対岸の天神山にもチャシと集落跡がある。著者はこれをサッポロ川が東へ移る前の本来の上サッポロコタンと見る。バンナグルアイヌの伝承では19世紀の上サッポロの人々は17〜18世紀に当別の美登位から洪水を機に移住した人々であり、名はその意味を担った集落より長く生き残ったことになる。

確信度: 低

文法に適い、藻岩山をサッポロ山と呼ぶ文献上の用法とも合う。要となる名詞 *sap「崎」は辞書に用例がなく、根拠は3つの岬と佐幌に sap が繰り返し現れることと、著者自身の sa-o-p という分解にとどまる。著者自身も本当の由来は誰にもわからないと述べる。

zenibako_trek2026 「サッポロの地名解」以下

用例

  • サッポロ/サツホロ 文献 Edo period

    江戸期文献の通常の表記。pet を伴う「サッポロベツ」は片手で数えるほどもない。

  • サッホロ山 文献 1857 村垣淡路守範正公務日誌
    ヲタルナイ川、この川上は平原至って広く、サッホロ・アッサフ山麓まで見渡し、この辺、在住の場所に申し立て候処や、至極よろしいと見える。

    箱館奉行村垣範正がヲタルナイ川(現・新川)河口付近から平原を見渡し、サッホロ山・アッサフ山の麓に在住場所を定めるよう命じた。この地点から見えるサッホロ山として藻岩山以外は考えにくい。

  • サッホロ山 文献 late Edo to early Meiji 西蝦夷海岸之図(近藤重蔵探検隊); 蝦夷全地(薮内於莵太郎); 北海道歴検図 後志州(目賀田帯刀); 玉蟲左太夫の記録
    サツホロ山、又コトニ山、ハツサフ山等見ユルナリ

    著者はこれらの文献のサッポロ山を藻岩山と同定する。ヲタルナイ川河口からの海岸図では山の形が恵庭岳のシルエットにも見えるため断言はできず、同定はこの地点からタルマイ山より左に見える山が藻岩山しかないという見通し線の議論による。札幌中心部からのスケッチはサッホロ山をヲタスツ山・ハッシャフ山(百松沢山)の手前に置く。目賀田帯刀の豊平からの錦絵は左の大きな山を「札幌岳」と記し、別図にエニワ岳があることからこれが恵庭岳でないことがわかる。豊平通行屋に泊まった玉蟲左太夫はサツホロ山をコトニ山・ハツサフ山と並べて挙げる。札幌八幡宮(北海道神宮の前身)は「イシカリ領字サッポロ山麓」に指定され、松浦武四郎はこれをエンカルシベと言い直している。西本願寺は「サッホロ山麓」を候補地とした。どちらもその場所には建立されなかった。

  • Satporo kotan 辞典 1905
    Satporo kotan, "the village of much dryness." (Jap. Sapporo).

    辞典中の例文でも町名として Satporo が使われる(Satporo wano「札幌から」、Satporo orun「札幌へ」)。

    Batchelor1905 grammar, end of chapter V
  • Sat-poro-pet 辞典 1905
    Sat-poro-pet. "The river which gets very dry." So called because this river is very broad at places and during the summer months the bed has consequently many dry places in it. But the name really comes from Sat-poro-nupuri, i.e. "dry mountain."
    Batchelor1905 § V "Place Names Considered", s.v. Sapporo

関連地名

  • 発寒 はっさむ 江戸期文献では「アッサフ」「ハッシャフ」と書かれ pet を伴う例はなく、定説の hacam-pet「桜鳥の川」と合わない。三角山の麓、首長ヨロタインのチャシがあったベッカウシの崖は平地に鋭く突き出た崎で、著者はこれを sap の候補とする。 zenibako_trek2026
  • 月寒 つきさむ 古くはツキサップ。和寒、厚沢部、京極のワッカタサップ川、屈斜路湖畔の双子山サワンチサップ・マクワンチサップとともに sap 地名の候補として挙げられる。 zenibako_trek2026

出典