鹿部 しかべ Shikabe
北海道渡島地方鹿部町
アイヌ語表記: Sikabet・Sikunotpe・Siknopet
記事以前に流通していた読みは、キハダ、あほうどり、バチェラーの荷車川、上原の負ふ所の4つである。19世紀の地図と日誌は、名を折戸川とその水源の大沼に結び付けている。現在の鹿部川にこれらの表記は現れない。
位置
42.0643, 140.7715 · 座標:OpenStreetMap Nominatim, 2026-09-10。鹿部 の位置。 OpenStreetMap で開く
指示対象
- 集落 駒ケ岳の麓、大沼の東側にある鹿部町
- 川 折戸川。松浦山川図に「シカヘツ」とあり、他の記録では「シクノッペ」。大沼より上の上流部は今も宿野辺川と呼ばれる。現在の鹿部川は集落に近い小さな川で、名は後からつけられた
- 湖 折戸川上流、大沼公園の大沼と小沼。大沼は「鹿部大沼」とも呼ばれた
語源分析
sikerpe
シケルペ ‘キハダのある所’ 定説- sikerpe ‘キハダ’
提唱者: 鹿部町(町名の由来/鹿部町の概要)
鹿部町自身の説明。「シケルペ」とはキハダ(一名シコロ)のある所の意で、イナウ・薬用・染料に使う貴重な木が多いことからそう呼ばれ、後に転訛して鹿部となったという。今日ではこの説が多く採用される。
反論
- 植物名が単体で地名になることはほとんどなく、キハダ説を取るなら sikerpe-tay「キハダ林」ないし sikerpe-us-pet「キハダの群生する川」などが考えられ、そういう地名なら他所にもある。 — zenibako_trek zenibako_trek…
樹木名は辞書にある語だが、主要部の名詞がなく、r を含む初期の表記もない。
Shikabe
シカベ ‘あほうどり’ 提案- Shikabe ‘あほうどり’
提唱者: 『北海道 駅名の起源』
『北海道 駅名の起源』はアイヌ語「シカベ」を「あほうどり」の意とし、あほうどりが多かったので名付けられたものであろうとする。切り分けは示されていない。
要素の切り分けも地形の裏付けもない語義のみの説である。
Shikebe
シケベ ‘荷車川’ 提案- Shikebe ‘荷車川’
提唱者: バチェラー (John Batchelor)
バチェラー『アイヌ語地名の命名法』所載。地元での説明として、隣に高くそびえ立っている火山の砂原岳を、この川があたかも担いでいるかのように見えるのでこの名があるという。
アイヌ語の切り分けを伴わない語義として伝えられており、要素を検証できない。
sika-un-pe
シカウンペ ‘負ふ所’ 提案- sika-un ‘物を負ふ事’
- pe ‘所’
提唱者: 上原熊次郎 (Uehara Kumajirō)
上原熊次郎『蝦夷地名考并里程記』に「シカベ: 夷語シカウンペなり。負ふ所と訳す。シカウンとは物を負ふ事。ベとは所と申訓なり。此地内浦山、又はシカヘ山を負ておるゆへ地名になすといふ」とある。著者はこれを sike-p「背負うもの」ないし sike-un-pe「荷物がある所」と言い換え、「駒ケ岳を背負っている」という表現を面白いとしつつ、類例をあまり見ないこと、そうであれば駒ケ岳に近い折戸川のほうがよく当てはまることを挙げる。
ランドマークとの関係を読む解で、著者もその表現を面白いとする。同型の地名の報告はなく、当てはまるのは今はこの名を負っていない折戸川である。
sikno-pet
シㇰノペッ ‘水に満ちた川’ 提案提唱者: zenibako_trek(小樽銭函地名歴史研究会) (zenibako_trek (Otaru Zenibako Place-Name and History Society))
地名は折戸川のものと見る。折戸川は19世紀の記録で「シクノッペ」「シカベツ」と呼ばれ、大沼より上は今も宿野辺川という。名の指す水は大沼で、幕末に目賀田帯刀が「鹿部大沼」と題して描いている。この読みでは、名はやがて折戸川で忘れられて河口に移り、集落に近い小川に改めて「鹿部川」と名付けられたことになる。sikno は sik の派生形としてバチェラー辞典に載る。宿野辺は別に supun-ot-pe「ウグイいる処」とも解されている。
異形
- sik-nup-pet ‘水に満ちた野の川’ — 間の nup を省くと sik-pet「水に満ちた川」となり、著者は意味はあまり変わらず「シカベツ」という表記も説明できるとする。
根拠
- 文献
松浦山川図は折戸川に「シカヘツ」と書き上流に大沼を描く。『初航蝦夷日誌』は「シユクノツヘ川」を「シカベツ」とも言うとし、間宮河川図は同じ川を「シクノッペ」とする。オリトという地名は江戸時代の史料に出てこず、明治以降の改名で、一説には和名の「下り処」からとされる。
- 形態パターン
第一要素が supun「ウグイ」であった場合、短縮されて「シカベツ」になった理由が説明できない。sik-nup-pet であれば間の nup を省ける。
反論
- 単純な sik-pet「水に満ちた川」については、川というもの総じてどこも水で一杯ではないかとし、たまたま音が似ているからと言ってすぐに結論を出すのは早すぎると自ら戒めている。 — zenibako_trek zenibako_trek…
sikno も pet も使われた意味のまま辞書にある語で、折戸川が本来の担い手だという同定は19世紀の3つの独立した記録に基づく。名が水について述べる内容は多くの川に当てはまる広さがあり、著者自身がそう述べている。
用例
- シヽヘ / シカヘツ 地図 19th century 松浦山川図
鹿部のところに「シヽヘ」、現在の折戸川のところに「シカヘツ」とあり、上流に大きな大沼が描かれている。
zenibako_trek… - シユクノツヘ川 / シカベツ 文献 19th century 初航蝦夷日誌(松浦武四郎)
川幅七八間、歩行渡り。此の傍に温泉有る由。又川上二里にトメの湯と言うも有ると聞けども行かざれば記さず。また此処をばシカベツとも言えり。
zenibako_trek… - シクノッペ 地図 19th century 間宮河川図
間宮河川図でも、大沼の下流の折戸川を「シクノッペ」とする。
zenibako_trek…
関連地名
- 宿野辺 しゅくのべ — 大沼より上の折戸川上流。supun-ot-pe「ウグイいる処」と解されている。著者は sikno-pet ないし sik-nup-pet「水に満ちた野の川」と読む。 zenibako_trek…