北海道後志地方小樽市祝津および胆振地方室蘭市祝津
祝津
しゅくつ Shukutsu集落名は1635年以降「シクツシ」、傍らの岬は「シクトル」「シクトツ」として、小樽でも室蘭でも記録されている。提出された3つの読みはいずれも末尾の us-i「〜ある所」を共有し、第一要素で分かれる。
アイヌ語表記: Sikutusi・Sikutur・Sikkutusi
語源分析
sikutut-us-i
シクツツシ
エゾネギある所
- sikutut エゾネギ
- us 生えている
- i 所
提唱者: 永田方正 (Nagata Hōsei)
永田方正は両方の祝津に Shikutut シクト゜ッ を当て、小樽の方に「山葱」「満山総葱」、室蘭の方に「葱」「今は無し」と記す。永田が挙げるのは植物名そのもので、植物名単体がそのまま地名になることはあまりないことから、著者が us-i を補った形にしている。祝津町史によると海岸の崖上にエゾネギが生えている。sikutut ないし sikutur はエゾネギ(チャイブ)で、行者にんにくは kito もしくは pukusa という。
反論
- 旧記類は「シクツシ」が多く、シクツツシではツが一つ多い。 — zenibako_trek zenibako_trek2024
si-kut-us-i
シクツシ
全くの岩崖ある所
- si 本当の
- kut 岩崖
- us ある
- i 所
提唱者: 知里真志保 (Chiri Mashiho)
地形による読み。小樽の日和山灯台の下には顕著な岩崖があり、室蘭の祝津も飛び出した岬の形をしており、2者に共通した地形が見られる。
反論
- si は big というより true や main に近く、本流とか他と対比して目立つ場所につけられる。塩谷からオタモイ、赤岩にかけて壮大な崖風景が広がっており、祝津がそれらに比べて「本当の」と言えるのかどうかわからない。 — zenibako_trek zenibako_trek2024
sik-kut-us-i
シクツシ
水に満ちた崖ある所
- sik 水に満ちた
- kut 岩崖
- us ある
- i 所
提唱者: zenibako_trek(小樽銭函地名歴史研究会) (zenibako_trek (Otaru Zenibako Place-Name and History Society))
知里の kut-us-i を保ったまま si を sik「満ちる」に置き換えた解。sik するのは外側の容器の方で、お椀いっぱいに味噌汁が入っているような様子を表す。中身の味噌汁について sik は使えない。小樽と室蘭のどちらの祝津も水に覆われた岬に位置し、小樽の岬には金鱗洞窟と穴澗洞窟がある。
異形
- sik-kut-or ‘水に満ちた崖の所’ — 岬の側の読み。小樽の高島岬は間宮・伊能が「シクトル」、室蘭の岬は「シクトツ」と記録している。
根拠
- 形態パターン
連続する子音は通常まとめられる(例:sak-kotan シャコタン)ため、si-kut-us-i も sik-kut-us-i も発音はほとんど変わらない。異なるのはアクセントで、si の場合は次の語に、sik の場合は先頭にアクセントが来る。
- 形態パターン
祝津の古老によると、昔は祝津を「シクヅシ」と先頭にアクセントをつけて発音していたという。sik の場合のアクセント位置にあたる。
- 文献
宝永元(1704)年の『蝦夷地納経記』は「シツクツシ」と書き、この解が想定する重子音を含む。
用例
- シクツシ 地図 1635 松前蝦夷図
小樽の祝津の初出。17〜18世紀の旧記類は概ねこの形で、「シクズシ」「シシツシ」「シツクツシ」「シクツイシ」のブレがある。
- しくずし 地図 Genroku era 元禄国絵図
- シツクツシ 文献 1704 蝦夷地納経記(空念)
作者の空念は独自にアイヌ語を現地で聞き取って採集しており、著者はこの表記を見過ごせないとする。
- シクジシ 地図 19th century 松浦武四郎の図
- シクトル 地図 19th century 伊能大図; 間宮河川図
間宮林蔵と伊能忠敬はどちらも岬のある日和山のあたりに「シクトル」と書く。著者はこれを別の派生地名と見る。
- 祝津志 / シクトツ岬 地図 1917–1955 今昔マップ室蘭
1917年図は室蘭側を「祝津志」、1955年図は岬を「シクトツ岬」と記す。小樽側は「祝津」と書いて「シクツシ」と読ませる。
関連地名
- 敷島内 しきしまない — 岩内の雷電方面にある地名。DBアイヌ語地名は siktut-oma-nay「エゾネギある川」と解するが、著者は音が離れすぎているとし、sik-suma-nay「水に満ちた岩川」を考えたものの肝心の岩が見当たらないとする。雷電海岸は険阻な岩だらけだが敷島内まで来ると穏やかな地形になる。地名解は保留とし、美深の敷島と比較して今後再検討するとしている。 zenibako_trek2024
- 色丹 しこたん — si-kotan「本村」と解されている。著者は島の中心にある穴澗の深い湾から sik-kotan「水に満ちた村」も解せなくはないとしつつ、アクセントが「コ」にある気がすること、定説を覆すほどの根拠がないことから sik 地名に含めるのを見送る。島の北にある斜古潭 sak-kotan「夏の村」・又古潭 mata-kotan「冬の村」を挙げ、シャコタンがシコタンになった可能性にも触れる。 zenibako_trek2024
出典
- 祝津・支笏・鹿部の由来 ~sik地名を考える~
zenibako_trek·2024-06-11
- アイヌ語沙流方言辞典
田村, すず子·1996